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2021/05/17 新型コロナ禍における賃料減額請求について

パートナー 弁護士 湯 尻 淳 也

  借地借家法第32条は、建物賃貸借契約において、その賃料が「土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる」との規定を置いています。



  そして、昨今の新型コロナ禍によって、経済は大きな打撃を受け、オフィスや店舗の賃料の支払いに窮する企業が多く生じていることは、報道等からも多く目にするところです。



  上記の条項とは別に、改正民法は、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される」 (第611条)と規定し、建物を使用及び収益することができなくなった場合に、それが賃借人の責めに帰することができないときには、その限度において当然に賃料が減額されるとの規定を置いています。しかしながら、単なる営業不振や、自主的な休業等が、上記の「使用不能」に該当すると評価することはできず、この規定に基づいて賃料の当然減額を主張することには、かなりの困難が伴うように思います。また、この規定は民法改正(令和2年4月1日)以降に締結された賃貸借契約に適用されるものであり、そもそも適用を受ける契約は未だ少ないということになります(なお、改正後に賃貸借契約が当事者の合意により更新されたときには、新法が適用されるとする見解もあります。)。



  そうすると、多くの場合において、賃料の支払いに困難が生じた場合には、冒頭に述べた借地借家法第32条に基づく賃料減額請求権を行使するほかないということになります。昨年来、賃料減額に関連するご相談は非常に多く受けており、いかに新型コロナ禍の影響が甚大であるかを実感しておりますが、これまでは「一時的な営業不振や、緊急事態宣言の発令等では、賃料が『不相当』とは評価できず、賃料減額請求が認められる可能性は低いので、減額を実現するには任意の話合いによるほかないのではないか」という趣旨の回答をしておりました。



  しかしながら、一旦落ち着きを取り戻したかに見えた感染状況は、本稿を執筆している本年1月時点で再び悪化の一途をたどり、緊急事態宣言が再度発令されるに至りました。また、政府は「新しい生活様式」を奨励し、今後、仮に感染状況が好転したとしても、人々の生活が完全に元に戻ることは考えにくいようにも予想されるところです。また、既に1年近くにもわたって新型コロナ禍が続いていることからすれば、経済全体の停滞が不動産市況自体にも影響を与え、賃料相場自体が下落し、賃料が「不相当」と判断される余地も十分にあるように思います。この点、新型コロナ禍を受けて、既に多くの賃料減額請求訴訟が裁判所に係属していることが推測され、今後、その結論が裁判例として公になることが予想されますので、目を光らせておく必要があると思います。



  他方、賃貸人の側からしても、賃料減額に応じないことで、賃借人が退去するに至った場合、昨今の状況では後継テナントを探索することには困難が伴うでしょうし、例えば一次的な賃料減免を認めることで、テナントをつなぎとめるメリットが大きい場合もあるでしょう。賃貸人としても、法律上の賃料減額請求権が認められない可能性があるとしても、一概に減額を拒否することなく、柔軟な対応を行っていくことが望まれるところです。