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2013/03/15 民事保全手続について

弁護士 61期 小町谷 悠介

1 民事保全とは

  借主に対する貸金の返還や賃借人に対する賃貸物件の明渡しを求めるような場合、相手方が任意に権利者側の請求に応じなければ、権利者は、訴訟を提起し、勝訴判決を得て、同判決に基づく強制執行手続によって権利の実現を図ることになります(具体的には、借主所有の不動産に対する強制競売手続による債権の回収や賃貸物件に対する明渡執行による明渡しの実現を行うことになります。)。

  しかし、訴訟は、訴状の作成・提出から判決の確定まで相当の時間を要するところ、例えば訴訟の係属中に借主が自身の所有する不動産を第三者に売却したり、賃借人が賃貸物件を賃貸人に無断で第三者に使用させたりしたような場合には、権利者がせっかく勝訴判決を得ても当該判決に基づく強制執行が出来ないという事態が生じ得ます。そこで、このような不合理を避けて、権利を保護するために、訴訟の前段階の手続として民事保全法に基づく民事保全手続が存在します。


2 民事保全の種類

  民事保全には、その目的と方法によって、仮差押えと仮処分があり、仮処分には、係争物に関する仮処分と仮の地位を定める仮処分の2種類があります。

(1) 仮差押え

  仮差押えは、金銭債権の支払いを保全するため、強制執行の対象となるべき債務者の財産のうち債権額に相当する適当な財産を選択して、その現状を維持し、将来の強制執行を確保する手段となります。仮差押えの執行がなされると、債務者は、当該仮差押え対象財産について、売買・贈与等の譲渡行為、質権・抵当権等の担保権設定行為その他一切の処分をすることが制限され、債務者がかかる制限に違反し、当該財産を売却等した場合であっても、その効力は、仮差押え債権者との関係では否定されることになります。また、不動産、動産及び債権を広く仮差押えの対象とすることが出来ますが、債務者の生活に欠くことが出来ない動産や年金等公的機関から受ける金銭の給付請求権、給料のうち一定の範囲を超える部分等法律上仮差押えが禁止される財産もありますので、裁判所への申立てにあたっては、差押えの対象としている財産が、仮差押禁止財産に該当しないことを確認する必要があります。

(2) 係争物に関する仮処分

  債権者が、債務者に対し、特定の物についての給付請求権を有し、かつ、当該目的物の現在の物理的又は法律的状態が変わることにより将来における権利実行が不可能又は著しく困難になるおそれがある場合に、当該目的物の占有の移転を禁止したり、処分を禁止したりして、目的物の現状を維持するのに必要な暫定措置をするのが係争物に関する仮処分です。具体的には、不動産に関する所有権等の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分や、物の引渡し又は明渡しの請求権を保全するための占有移転禁止の仮処分などがあります。

(3) 仮の地位を定める仮処分

  仮の地位を定める仮処分とは、争いがある権利関係について、債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるために、暫定的な法律上の地位を定める仮処分です。

  仮の地位を定める仮処分は、その性質上、非定型的な内容のものが少なくなく、実際に裁判所に認められた例としては、ゴルフクラブ会員が施設利用権を有する地位を定めたもの、交通事故の加害者に対し、被害者への生活費の仮払いを命じたもの、暴力的な債権の取立屋に対し債権の取立ての禁止を命じたもの等があります。


3 債務者への配慮―債権者による担保の提供

  民事保全手続は緊急性及び密行性が求められることから、簡易な手続で、かつ、債権者の一方的主張や立証によって保全命令が発令されることになるため、時として請求権の完全な確認に欠けることが生じ得、そうであるにもかかわらず、一旦なされると、債務者に対する決定的打撃となる場合があります。そこで、民事保全法は、債務者を保護するための方策を講じており、その一つが、債務者が被ることのある損害について、債権者に担保を立てさせる制度です。担保額は、裁判所の自由な裁量によって決定されますが、裁判所内部の基準があり、たとえば、貸金債権を保全するために不動産の仮差押えを行う場合には、対象不動産の固定資産税評価額の10%?25%を担保額として債権者に提供させているのが一般的なようです。そして、この担保は、限られた短期間(1週間とされることが多いようです。)内に提供することが求められ、当該期間内に担保を提供することが出来なければ、保全命令の申立てそのものが却下されてしまいますので、注意が必要です。保全命令の申立てを行うにあたっては、あらかじめ、必要となる担保の額を想定し、準備をしておくことが肝要だと言えるでしょう。