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2018/04/16 民法改正における債権の消滅時効

弁護士 59期 横田 卓也

1 消滅時効の起算点及び時効期間




(1)現行民法では、債権の消滅時効は権利を行使できる時から進行するとした上、期間については、原則として10年とし、職業別の短期消滅時効等を定めています(現行民法166から174条)。また、商行為によって生じた債権の消滅時効期間は5年とされています(商法522条)。


(2)しかし、これらの規定は現代社会の取引類型と適合しないものがあり、また、個別具体的な適用の判断が困難なものがあることなどから、原則として統一する方向で改正がされます。

  すなわち、以下の例外を除き、債権は原則として、1)債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないとき、又は、2)権利を行使できる時から10年間行使しないときは、時効により消滅することとされました(改正民法166条1項)。これに伴い、商法522条は廃止されました。


(3)例外として、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権は、改正民法167条により上記(2)2)の10年を20年とし、定期金債権は、改正民法168条1項により、債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から10年間行使しないとき(1号)、又は、前号に規定する各債権を行使できる時から20年間行使しないとき(2号)に時効消滅することとされました。


(4)また、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利は、現行民法と同様に、10年より短い時効期間の定めがあっても時効期間は10年となります(改正民法169条)。


(5)さらに、不法行為による損害賠償請求権については、改正民法724条により、1)被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき(1号)、又は、2)不法行為の時から20年間行使しないとき(2号)は時効により消滅することとされ、改正民法724条の2により、人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求については、724条1号の「3年間」を「5年間」にすることとされました。


(6)なお、特別法に権利の消滅に関して民法と異なる定めがあるときは、それが優先します。例えば、労働基準法115条では、同法の規定による賃金等は2年間(退職手当は5年間)で時効消滅するとされており、当該規定は存続します(ただし、今後改正があるかもしれません。)。





2 時効障害事由(完成猶予と更新)(改正民法147から161条)




(1)改正民法では、時効完成の障害となる事由として、一定期間時効の完成が猶予される「完成猶予」と、時効進行がリセットされ改めて時効期間が進行する「更新」という制度を定めています。現行民法では、「中断」及び「停止」が定められているところ、「完成猶予」は「停止」、「更新」は「中断」と同様の概念であり、実際の効果と適合する用語に変更されました。

  「完成猶予」及び「更新」の具体的事由について、改正民法では以下のとおりに変更されます。


(2)裁判上の請求等(訴訟、支払督促、訴え提起前の和解、破産手続参加等)があるとその事由が終了するまでは時効の完成が猶予され、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、当該事由が終了したときから新たに時効が進行(更新)します。確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなく当該事由が終了したときは、終了の時から6箇月間完成が猶予されるにすぎません。


(3)強制執行等(強制執行、担保権の実行、財産開示手続等)があるとその事由が終了するまで時効の完成は猶予され、その事由が終了した時から新たに時効が進行(更新)します。申立の取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了したときは、その終了の時から6箇月間完成が猶予されるにすぎません。


(4)仮差押え及び仮処分があるとその事由が終了した時から6箇月間は時効の完成が猶予されます。現行民法では、仮差押え及び仮処分は中断事由とされていましたが、改正民法では、完成猶予事由とされました。


(5)催告については、現行民法から実質的な変更はなく、催告の時から6箇月間時効の完成が猶予されます。催告によって時効の完成が猶予されている間になされた再度の催告は時効の完成猶予の効力は生じません。


(6)新たに、協議を行う旨の合意による時効の完成猶予の制度が設けられました。

  すなわち、権利について協議を行う旨の合意が書面(又は電磁的記録)でされたときは、1)その合意があった時から1年を経過した時、2)その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る)を定めたときは、その期間を経過した時、又は、3)当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面(又は電磁的記録)でされたときは、その通知の時から6箇月を経過した時のいずれか早い時までの間、時効の完成が猶予されます。

  当該合意により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同様の合意は、同様の時効完成猶予の効力を生じますが、完成猶予がなければ時効が完成すべき時から通じて5年を超えることはできません。

  催告によって時効の完成が猶予されている間になされた合意、及び、合意によって時効の完成が猶予されている間にされた催告は、時効完成猶予の効力は生じません。

  どこまで実用性があるか未知数ですが、新たな制度として注目されます。


(7)権利の承認があったときは、その時から新たに時効期間が進行します。


(8)未成年者又は成年被後見人と時効、夫婦間の権利の時効、相続財産に関する時効、天災等があった場合の時効については、現行民法と基本的に同趣旨の規定として、6箇月間又は3箇月間の完成猶予が定められています。





3 時効の完成猶予又は更新の効力が生じる範囲及び援用権者




 時効の完成猶予又は更新の効力は、現行民法同様、当事者及びその承継人の間においてのみ生じることとされ(改正民法153条)、援用権者については、現行民法では、「当事者」との定めしかありませんでしたが、これまでの判例を踏まえ、消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者が含まれることが明記されました(改正民法145条)。