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2014/09/16 消滅時効一般

弁護士 59期 横田 卓也

1 はじめに

消滅時効とは、一定期間権利行使をしない場合に、権利を消滅したものとして取り扱う制度です。債権のほか、所有権以外の財産権は原則として消滅時効の対象になるとされておりますが、今回は、実務上問題となることが多い債権の消滅時効の基本的事項について確認したいと思います。



2 消滅時効の起算点

  起算点は、消滅時効の時効期間がいつから進行するかの起点であり、原則として、権利を行使することができる時から進行するものとされています。

  具体的には、期限の定めのある債権であれば期限が到来した時から、停止条件付債権の場合は条件が成就した時から、期限の定めのない債権であれば債権が発生した時から、それぞれ消滅時効が進行します。



3 時効期間

  債権の消滅時効が完成するまでに必要な期間は、原則10年間です。

  しかし、時効期間については、多くの例外が定められており、実務上、消滅時効が問題となるときは、時効期間は10年ではない場合が多いです。

  例えば、商行為によって生じた債権の時効期間は5年とされているほか、年又は年より短い期間を定めた金銭の給付を目的とする債権は5年、小売商人が販売した商品の代金債権は2年、旅館や飲食店の代金債権は1年など、様々な例外が定められています。また、確定判決(又は確定判決と同一の効力を有するもの)によって確定した権利は、もともと10年より時効期間が短いものであっても、一律に10年となります。

  なお、時効期間だけではなく、起算点も含めて特別な定めがある場合もあり、例えば、不法行為に基づく損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年で消滅時効が成立します。



4 中断・停止

  時効の中断とは、一定の事由により、時効の進行が止まり、中断事由がなくなった時点から改めて時効の進行が始まる(時効の進行がリセットされる。)ことを言います。中断事由としては、(1)請求、(2)差押え、仮差押え又は仮処分、(3)承認があります。

  請求とは、裁判上の請求、支払督促の申立て、破産手続・再生手続・更生手続への参加等です。このような法的手続ではなく、債権者から債務者に対して任意に請求をしただけでは中断事由とはなりません。任意の請求は、法律上は催告となり、催告から6か月以内に上記のような法的手続や差押等を申し立てた場合に初めて中断事由となります(時効完成直前に、すぐに法的手続を申し立てる余裕がないときに、とりあえず催告をした上、6か月以内に法的手続を申し立てれば、法的手続を申し立てた時点で時効期間が経過していても、催告をした時点で時効の進行が中断していることになるということです。)。

  承認とは、債務者が債務の存在を認めることであり、例えば、債務者が債務の一部を弁済した場合、通常残余の部分について承認があったものと考えられます。

  なお、中断事由は、時効が完成する前に生じなければ効果が発生しませんが、時効完成後においても、債務者が時効完成の事実を知っていたか否かに関わらず、債務の存在を認めた場合(一部弁済をした場合など)は、信義則上消滅時効を主張することはできないと考えられています。

  中断と似た概念として停止というものがありますが、これは、法律の規定により、一定の事由が発生した場合に、一定の期間に限って時効完成が猶予されるものであり、実務上問題になることは少ないと思われます。



5 時効の援用

  中断事由が発生することなく時効期間が経過し、消滅時効が完成したとしても、その効果を受けるためには、相手方に対して消滅時効の効果を主張する意思表示をしなければ効果は発生しません。これを時効の援用と言います。



6 時効の利益の放棄

  消滅時効が完成した後、債務者が消滅時効の利益を放棄(消滅時効の効果は主張しない)することは可能ですが、消滅時効が完成する前に予め放棄することはできません。自分が債権を取得する契約をする際に、予めその相手方に消滅時効は主張しないという約束をさせても無効ということです。



7 除斥期間

  消滅時効と似ている制度として、除斥期間というものがあります。特に法律で規定されている場合に認められるもので、債権の存続期間を定めたものであり、一定期間の経過によって権利が消滅するという点では消滅時効と同じですが、債権発生時から進行し、中断はなく、援用も不要であり、除斥期間経過後にその利益を放棄することもできないと考えられています。例えば、不法行為に基づく損害賠償請求権は、不法行為の時から20年で消滅するとされており、これは除斥期間を定めたものと考えられます。



8 最後に

  消滅時効のごく基本的なことについて述べましたが、権利の消滅という重大な効果が生じることから、企業活動を行うにあたっては、消滅時効は重要な問題であり、かつ、時効期間が何年なのか、中断していると言えるのかなど様々な問題がありますので、弁護士等の専門家に相談しながら管理することが重要です。