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2017/12/18 満年齢の数え方

パートナー弁護士 芳 村 則 起

1 設問


  離婚する際に未成年の子の養育費の支払について定める場合、その終期については、例えば「満20歳に達する日の属する月まで」というような定め方をすることがあります。

  このように定めた場合、平成8年8月1日生まれの子は、何年何月まで養育費が支払われるのでしょうか。満20歳の誕生日は平成28年8月1日なので、平成28年8月まで支払われるようにも思われますが、そうではありません。




2 期間計算の原則(初日不算入の原則)


  期間を時間によって定めたときは、即時から起算しますが(民法第139条)、期間を日、週、月又は年によって定めたときは、(その期間が午前0時から始まるときを除き)期間の初日は算入しません(民法第140条)。

  例えば、借地契約の期間について、30年以上とするには、初日不算入のため、「平成元年4月1日から平成31年3月31日まで」では1日足りません。

  かつて、旧借地法においては、非堅固建物所有目的の借地契約の期間は30年(ただし建物が朽廃すればそれにより終了する)とするが、契約をもって20年以上の存続期間を定めたときはその期間となる旨定めていました(旧借地法第2条)。そこで、20年よりも短い期間(例えば「3年」等)を定めてしまうと、これを定めなかったものとみなされます(最高裁判所昭和44年11月26日判決・民集23巻11号2221頁)。この期間を「昭和36年1月8日から昭和56年1月7日まで」と定めた借地契約の条項について、20年に1日足りなかったことから、20年の期間を定めたものとして有効か、それともこれを定めなかったものとみなされるかが最高裁判所まで争われた例もあります(最高裁判所昭和57年2月4日判決・判例タイムズ467号91頁)。




3 年齢計算についての例外(初日算入)


  満年齢については、「年齢計算ニ関スル法律」により例外的な取扱いが定められ、出生の日より起算することとされます(同法第1項)。

  そこで、設問の平成8年8月1日生まれの子は、平成8年8月1日から起算され、満20歳になるのは、そこから20年間、すなわち、平成28年7月31日の満了時(午後12時)であり、したがって、その子が「満20歳に達する日」とは平成28年7月31日(誕生日の前日)となり、その日が属する月とは「平成28年7月」となります。よって、設問の答えは、養育費が支払われるのは平成28年7月までであり、同年8月は支払われないことになります。




4 その他の例その1(小学校に入学する年)


  このように年をとる日が誕生日当日ではなく、その前日であることから、例えば、4月1日生まれの子はいわゆる「早生まれ」となり、同じ年の1月から3月に生まれた子と一緒に、満6歳になる誕生日と同じ年の4月に小学校に入学することになります。1日遅い4月2日生まれの子は、その翌年4月の入学となります。

  これは、学校教育法第17条で「保護者は、子の満六歳に達した日の翌日以降における最初の学年の初めから、・・・これを小学校・・・に就学させる義務を負う。」と規定され、小学校の学年は4月1日に始まるので(同法施行規則第59条)、4月1日生まれの子は3月31日に満6歳になり、その翌日がその「翌日以降における最初の学年の初め」となりますが、4月2日生まれの子は4月1日に満6歳になるので、その翌年の4月1日がその「翌日以降における最初の学年の初め」となるからです。




5 その他の例その2(選挙権)


  また、選挙投票日の翌日に満18歳の誕生日を迎える人は、その選挙の選挙権を有することになります。

  これは、公職選挙法第9条第1項等に「満十八年以上の者」は〇〇の選挙権を有すると規定され、被選挙権について年齢は選挙の「期日」により算定すると規定する同法第10条2項は選挙権についても類推適用すべきとされ、よって、選挙権を有するのは満18歳に達した日を含むと解され、その翌日に満18歳の誕生日を迎える人を含むと解されるからです(大阪高等裁判所昭和54年11月22日判決・判例タイムズ407号118頁)。




6 期間や年齢の数え方について、日常的な感覚と必ずしも一致しない場合もあります。この点に限らず、契約等で条項を定めたり、定められたものを解釈したりする場合等は、不安があれば専門家に相談するのが堅実です。