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2017/10/16 無期転換ルールについて

弁護士 66期 山 田 朝 子

1 無期転換ルールとは



  無期転換ルールとは、平成25年4月1日以後に開始する有期労働契約が、同一の使用者との間で5年を超えて反復更新された場合に、有期契約労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約に転換されるルールをいいます(労働契約法18条1項)。

  労働者が使用者に対して上記申込みをしたときは、使用者は労働者の申込みを承諾したものとみなされ、有期雇用契約の契約期間が満了した日の翌日から無期労働契約が開始することになり、その労働条件は、別段の定めがある部分と期間の定めの部分を除いて、それまでの有期労働契約と同一となります。

  無期転換ルールは、平成25年4月1日以降に開始した有期労働契約に適用されますので、その5年後である平成30年4月1日以降、期間の定めのない労働契約に転換された労働者(以下「無期契約労働者」といいます)が生まれる可能性があります。 




2 無期転換後の労働条件について



  会社が無期転換後の労働条件について別段の定めを設けずに無期転換の申込みがなされると、以下の問題が生じる可能性があります。

 (1) 定年のない無期契約労働者になる

   有期契約労働者の就業規則には、通常、定年の定めがありませんので、無期転換後もその就業規則が適用されると、無期契約労働者の労働契約は定年のないものになります。
   また、無期契約労働者用の就業規則を新たに制定し、65歳未満での定年を定めた場合には、無期契約労働者についても高年齢者の雇用継続措置を講ずる必要があります。

 (2) 無期契約労働者に正社員の就業規則が適用されるおそれがある

  正社員の就業規則において、正社員の定義を「期間の定めのない雇用契約を締結している者」と定めていたり、又は、「原則として正社員の就業規則が全社員に適用され、別段の定めがある場合にはそちらが適用される」と定めていると、無期社員に正社員の就業規則が適用されるおそれがあります。昇給・昇格、賞与、退職金、休職制度等の労働条件について、有期契約社員よりも正社員の方が有利な場合には、無期社員に正社員の就業規則をそのまま適用してよいかどうかを事前に検討しておく必要があります。

 (3) 無期契約労働者の賃金を改定する規定がない

  昇給は就業規則の絶対的必要記載事項であり、降給を行う場合にも根拠規定が必要ですが、有期契約の場合、契約更新時に賃金の改定を行うことが多く、就業規則に賃金改定の規定がないことがあります。この就業規則を無期契約労働者にそのまま適用すると、無期契約労働者の賃金は退職するまで転換時のままとなります。

 (4) 有期契約労働者の就業規則の不備

  無期契約労働者になると、契約期間満了による雇止めができなくなりますので、解雇、懲戒、服務規律等の規定を整備しておかないと、無期契約労働者に対して懲戒処分や解雇を行うことができなくなるおそれがあります。





3 無期契約労働者に適用される就業規則の制定時期について



  無期契約労働者が生じていない段階で、無期契約労働者に関する就業規則を作成すれば、無期契約労働者と使用者との間の労働契約締結前に就業規則が存在することになるので、合理的な労働条件を定めた就業規則を周知していた場合には、無期契約労働者の労働契約の内容はその就業規則に定める労働条件によることになります(労働契約法7条)。

  他方で、無期契約労働者と会社の間の無期労働契約成立後に作成された就業規則を無期契約労働者に適用する場合には、原則として当該無期契約労働者との個別の合意が必要です(労働契約法9条)。また、個別合意を得ることなく上記就業規則を適用する場合は労働契約法10条が適用され、就業規則の変更が合理的でなければならず、その合理性の判断は労働契約法7条の場合よりも厳格に判断されることになります。

  したがって、無期契約労働者用の就業規則を新たに作成するのであれば、無期転換権が発生する平成30年4月1日までに行っておくべきです。