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2019/03/15 生みの苦しみ

なんちゃってゴルファー

  ゴルフを観たりプレーしたりする方でなければご存知ないかもしれませんが,ゴルフの世界では,今般,大幅なルール改正が行われ,プロ・アマチュアの別にかかわらず,また国内外を問わず,2019年1月1日から新しいルールが施行されています。




  ルール改正の趣旨は,複雑なルールの簡素化や文言の平易化を図ってより分かりやすくすること,プレーのペースアップを図ってスムーズな進行を促進することといった点にあり,これからゴルフを始めるプレーヤーにとっての心理的な障壁をなるべく取り除き,より一層ゴルフの普及を図ろうというものです。




  改正点は多岐にわたっていますが,代表的なものを幾つかご紹介します。



(1)ボールを捜す時間の上限が『5分間』から『3分間』に

  改正前は,5分間は自分の打ったボールを捜すことが許されていましたが,改正後は,3分間に短縮され,プレーのペースアップ(他のプレーヤーや観戦者の待機時間の短縮)が図られました。


(2)ホールに旗竿を立てたままパットをすることが可能に

  改正前は,グリーン上でパットをする際,ホールに立った旗竿を外す必要があり,旗竿を立てたままパットをしてボールが旗竿に当たった場合には罰則がありましたが,改正後は,旗竿を立てたままパットをすることができるようになりました。

  従前,長いパットを残したプレーヤーがいた場合,そのプレーヤーにホールの位置がわかりやすいように,同伴者が旗竿を抜きつつも,抜いた旗竿をホール上で持っているという光景がよくみられましたが,このような同伴者の付き添いを不要化することによって,プレーのペースアップを図ろうとしたものです。


(3)ドロップの高さが『肩の高さ』から『膝の高さ』に

  ゴルフでは,人工の障害物や修理地等を避けるため,一定の条件のもとでボールを拾い上げ位置を変えてドロップし,そこからショットをすることが認められているのですが,改正前は,ドロップする高さが『肩の高さ』とされていたのに対し,改正後は,『膝の高さ』に変更されました。

  これは,ルール上,ドロップしたボールが予想外に転がってしまい,認められた範囲外まで転がり出てしまった場合には,再度ドロップしなければならないとされているところ,より低い位置からドロップすることにより,ボールが転がり過ぎるケース,つまり再ドロップを要するケースを減らし,ひいてはスムーズな進行を図ろうとしたものです。




  しかし,長く使われてきたルールの大幅な改正となると,既存のプレーヤーや関係者には,旧ルールが体に染みついていることなどもあって,プロの世界でもルール違反を指摘される例や,適用の是非を巡る議論が少なくないようです。




  2019年のプロゴルフの試合は既に始まっていますが,海外では,世界ランキング1位にもなったことのあるアメリカの男子プロ(リッキー・ファウラー)が,肩の高さからボールをドロップし,そのボールを打った(上記ルール改正?に関する違反)として1打罰を科されたほか,日本でも,ボールを捜してから3分が経過した後に偶々発見されたボールを(紛失球とせずに)打ってしまった(上記ルール改正?に関する違反)女子プロが失格となっています。




  また,アメリカツアーでは,ルール(スタンスをとった後に後方に人を立たせることの禁止)の厳格(形式的)な適用の是非をめぐって議論が巻き起こり,一度は2打罰を科された男子プロがその後2打罰を取り消されるという珍事も起こっています。




  ルールを適用する側も,ルールに従ってプレーする側も,新ルールのもとでは,いまだ混乱しているという状況にあり,このような状況を,生みの苦しみと表現する人もいます。




  話は変わりますが,2020年4月1日には,民法(債権法)の大幅な改正を行った法律の施行が迫っています。

  明治29年から約120年間にわたって大幅な改正が行われてこなかった民法が,複雑なルールの簡素化・文言の平易化を図ってより分かりやすくすることや,現代社会により適合するルールに作り替えることを企図して大幅に改正されたのですが,民法についても生みの苦しみを味わうことになるのか,我々法曹の対応力も問われることになりそうです。