2015/10/16 第三者による弁済
パートナー 弁護士 芳 村 則 起
1 弁済の可否と弁済による代位
債務の弁済は、債務者が自ら行うべきものだが、債務者以外でも行うことができる。また、債務者以外の者が弁済した場合、その効果として、弁済者が債権者に代位する(当該債権について債権者が有していた保証、担保権等が弁済者に移転する)。この効果に着目して、第三者が弁済することを代位弁済と呼んだりする。
もっとも、誰が、どのような場合に弁済できるかという要件の問題と、その弁済により生じる効果(代位)とは、別の問題であり、区別して考える必要がある。
2 第三者弁済の要件
債務の性質により許されない場合を除き、法律上の利害関係を有する者は、債務者の承諾がなくても弁済をすることができ、また、債務者の承諾があれば、誰でも弁済をすることができる(民法第474条)。これらの場合は、債権者は弁済を拒むことができず、拒めば、受領遅滞となり、また、供託されてしまう可能性もある。
なお、弁済期にある債務の一部の弁済や、債権者が期限の利益を有する債務の期前弁済は、債務者からの弁済であっても拒むことができるので、弁済者に法律上の利害関係があっても、債務者が承諾をしていても、債権者は拒むことができる。
3 第三者弁済による代位(法定代位と任意代位、全部代位と一部代位)
弁済をするについて正当な利益を有する者が弁済した場合は、弁済と同時に当然に、弁済者は債権者に代位し、債権者が有していた担保権等を取得する(民法第500条。法定代位)。この「正当な利益を有する者」と債務者の承諾がなくても弁済することができる「法律上の利害関係を有する者」とは、必ずしも同一とは限らないが、基本的に同じと考えてよいように思われ、連帯保証人、物上保証人、担保物件の第三取得者等債務や責任を負う者や、担保物件の後順位担保権者等がこれに該当するとされている。
上記の正当な利益を有しない者が弁済した場合、弁済と同時に債権者が承諾をすれば、弁済者は債権者に代位する(民法第499条第1項。任意代位)。
よって、正当な利益を有しない者が債務者の同意を得て弁済を申し出た場合、債権者は弁済を受けること自体は拒めないが、任意代位の承諾は拒むことができる。
任意代位による各種の権利の移転は、債権譲渡と同様の通知又は承諾が対抗要件となる(民法第499条第2項)。法定代位による移転は、法律上当然の代位なので、対抗要件は不要であるが、実務的に通知した方がよいと考えられる場合は通知する。
法定代位又は任意代位があった場合は、債権者は、債務者等へ上記通知をするほか、代位弁済者に対して、抵当権又は確定した根抵当権の設定登記の全部又は一部移転登記や債権証書の交付又はこれに代位を記載する等代位した権利の行使を容易にしてやる義務を負うが、弁済者が債権の一部のみを弁済した場合(一部代位)と、債権の全部を弁済した場合(全部代位)とで差異がある(民法第503条等)。
4 代位によって取得した権利の行使等の制限
弁済者が代位によって取得した権利は、弁済者が弁済することよって取得した債務者に対する求償権を回収するためのものであるので、必ずしもその全額を請求できるとは限らず、求償権を行使できる限度に限られる。
また、保証人、物上保証人等相互間では、互いに代位できる範囲等について制限され、その間の利害が調整されている(民法第501条)。
さらに、債権の一部のみを弁済した者は、その弁済した価額に応じて債権者とともに権利を行う旨規定されているが(民法第502条第1項)、その担保権の行使は、債権者の担保権行使に付随してのみ認められ、別個に独立して行使することは認められず、また、担保権が実行された場合の配当について債権者に優先されると解されている。
5 まとめ
第三者による弁済や、弁済による代位は、民法に規定されており、司法試験受験等により条文や論点の知識はあっても、現実に生じた場合にどう対応するかの判断は容易ではない。
第三者から弁済の申し出があった場合、弁済や代位に応じるか否か等を適切に判断して対応し、また、代位する場合は適切な手続をとる必要がある。
対応にお困りの場合は、是非、当事務所にご相談ください。