2021/02/16 続・司法修習生採用面接での設例
代表社員 弁護士 近 藤 基
1.設例
当事務所では、例年、司法修習生の採用面接の際に、設例を提示してこれに対する法的見解を答えてもらっている。昨年の設例は次のようなものであった。ただし、実際の設例よりも大幅に簡略化し内容も一部変更している。
1) X銀行は、個人Aに対し、住宅建築資金として2000万円を貸し付けた。
2) Aが建築した建物の敷地はAの母親Bの所有であり、Aの土地利用権は使用貸借に基づく権利であった。しかし、X銀行は土地について抵当権の設定を受けず、建物についてのみ抵当権の設定契約を締結した。
3) その後Bが死亡し、Aが単独で土地を相続した。
4) さらにその後にAが死亡した。Aの家族は、妻C、Cとの間の子のD及び不倫相手との間の子のEがいる。
5) Aは、建物はCに、土地はDにそれぞれ単独で相続させる旨の遺言をしていた。
6) Aの死亡後はまったく返済が行われておらず、X銀行の債権の現在額はAの死亡時点と同額の600万円である。
7) Aの債務は、現在、誰が、いくら負っているか。Aが、X銀行に対する債務はすべてCに承継させるとの遺言をしていた場合はどうか。
2 相続債務の承継について
(1) 法律上、被相続人が負っていた金銭債務は、相続によって、法定相続分の割合で分割されて法定相続人に承継されることになっている。本件の場合は、法定相続人であるC、D及びEがAの債務を承継している。ここまでは、修習生も全員が正しく答えた。
では、各相続人の法定相続分はそれぞれどうなるか。まず、配偶者であるCが2分の1である。ここまでは、よい。
(2) ところが、修習生の中の何人かは、非嫡出子であるEの相続分は嫡出子であるDの2分の1であると答えた。その理由は、民法900条4号本文は「兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする」とあるが、ただし書きで「ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする」とあり、非嫡出子のEは嫡出子のDとは父母の一方のみが同じだからであるというのである。一瞬もっともらしく思えそうである。
(3) しかし、これは明らかな間違いである。900条4号でいう「兄弟姉妹」とは、被相続人の兄弟姉妹のことである。4号でいう「兄弟姉妹」とは、第1順位の相続人である子も第2順位の相続人である直系尊属もいない(またはこれらの全員が相続を放棄した)ために、第3順位の相続人となる被相続人の兄弟姉妹のことを意味し、被相続人に複数の子がいて、この複数の子(お互いにとってみれば、兄弟姉妹である)が相続人となる場合を意味しているわけではない。そのことは、900条の全体の構造からして明らかである。つまり、4号のいう「父母の一方のみを同じくする」とは、被相続人と父母の一方のみを同じくするという意味であって、相続人相互間で父母の一方のみを同じくするという意味ではない。
(4) したがって、正しい相続分は、嫡出子であるDと非嫡出子であるEともに各4分の1である。その結果、Aの債務を、Cが300万円、D及びEが150万円ずつ承継していることになる。
ところが、修習生は、4号ただし書きの「兄弟姉妹」の語に表面的に飛び付いてしまい、DとEは「兄弟姉妹」だが父母の一方(父であるA)のみを同じくするから、同号ただし書きの適用があると早合点してしまったものである。
3 基本的条文の正確な理解の重要性
民法900条は相続法における最も基本的な条文の一つであり、ある程度法的素養のある者であれば誰でもその内容は理解しているはずの条文である。出題者としては、メインの論点はもっと別のところ(たとえば、上記1の?の後段の場合はどうなるかや、建物の価値だけでは債権額に満たない場合に土地からどのように回収するか等)に用意したつもりであり、こんなところで修習生がつまずくとはまったく想定外であった。あらためて基本的な条文の正確な理解の重要性を再認識するとともに、自分も思わぬところで恥ずかしい誤解をしていやしないかとヒヤッとした次第である。