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2019/09/16 裁判外紛争解決手続(主にスポーツ仲裁について)

パートナー 弁護士 湯 尻 淳 也

1 裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(以下,「ADR法」といいます。)


  ADR法(ADRとは,Alternative Dispute Resolutionの略で,裁判外紛争手続のことを指します。)は,2004年に成立した法律で,厳格な手続で国民にとって使いやすいとは必ずしもいえない裁判手続のほかに,より簡易・迅速かつ安価に紛争を解決する手段を提供することにより,国民がより身近に司法制度を利用できるようにすることを目的として制定されました。

  同法に基づく認証紛争解決機関としては,2007年に法務大臣により認証された公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(略称「JSAA」。なお,当時は法人格のない団体でした。)が最初で,以後,日本弁護士連合会交通事故相談センターや,全国銀行協会など,多くの団体が認証を受けています。

  本稿では,認証第1号のJSAAを例に,裁判外紛争解決手続の実際をご紹介いたします。




2 JSAAにおける紛争解決手続について


  JSAAにおいては,大きく分けて仲裁手続と,調停手続が用意されていますが,ここでは仲裁手続について説明します。

  仲裁手続とは,スポーツ団体等が競技者等に対して行った決定に不服がある競技者が申し立てたり(スポーツ仲裁),ドーピングに関して日本アンチ・ドーピング機構等が行った決定に不服がある競技者等が申し立てたり(ドーピング仲裁)するものです。申立費用は54,000円です。

  上記の申立てがあった場合,JSAAは,各当事者が仲裁人の候補者リストに掲載された者から仲裁人を選定し,さらにその2名が1名(仲裁人長)を選定し,「仲裁パネル」が構成されます。なお,競技会が目前に迫っているなど,緊急を要する事情がある場合に選択される「緊急仲裁」の場合は,仲裁人1名のみで審理が行われるのが原則です。

  仲裁手続には,双方当事者が仲裁手続の利用について合意すること(仲裁合意)が必要ですが,多くの競技団体がその規約等で「自動応諾条項」を定めており,その場合は,適法な申立てがあった場合には,自動的に仲裁合意をしたものとみなされます。

  その後,当事者間で主張を記載した書面や証拠のやり取りが数回行われた後,仲裁パネルの前で主張を述べたり,証人尋問を行ったりする「審問」が原則として1回だけ開催されます。審問が終わると,3週間以内に仲裁パネルから仲裁判断が示されます。

  この仲裁判断は最終的なものであり,不服申立てを行うことはできません。仲裁判断については,競技者等の氏名を匿名とした上でJSAAのホームページ(http://www.jsaa.jp/)で公開されていますので,ご興味のある方はご覧いただければと思います。

  スポーツ仲裁やドーピング仲裁においても,ほとんどの案件は双方に弁護士の代理人が就任しています。しかし,競技者側で,代理人を選任する必要があり,かつ経済的にそれが困難な事情があるときには,「手続費用支援要請」を行うことができ,1件につき最大30万円(税別)の支援が受けられることになっています。また,上記の申立費用については,仲裁判断の内容により,双方当事者の負担割合が決められます。




3 JSAAの手続の特色について


  JSAAの手続の特色は,ひと言でいうと,第1項で述べたADR一般の特色ともいえますが,簡易・迅速で安価であることです。訴訟手続では,紙ベースで訴状を提出し,費用は収入印紙を訴状に貼付して納付します。それに対し,スポーツ仲裁においては,申立費用は銀行振込みで,書類の提出も全てEメールによる送付で進められます(案件ごとにメーリングリストが作成されます。)。また,54,000円の申立費用は必ずしも低廉とはいえませんが,上記の代理人選任費用の支援制度もあり,全体としては競技者等にとって経済的に非常に使いやすいものとなっています。

  また,訴訟手続では,1ヶ月に1度ほど開催される訴訟期日に原則として双方が出頭した上で,書面の陳述等を行うことになりますが,スポーツ仲裁においては上記のとおり書面等のやり取りはEメールで完結し,審問は原則として1回のみとなっています。

  以上の結果,訴訟手続に比べ,大幅に利用しやすく,かつ,迅速に結論が得られるようになっています。




4 前号の小野総合通信の巻頭言において,「裁判手続のIT化」について書かせていただきましたが,より利用しやすい司法手続のためには,裁判手続の改革と並んで,ADRについても,様々な制度が拡充されていくことが望まれます。