2013/12/16 賃料増減額請求について
弁護士 58期 長田 誠司
1.はじめに
一旦決まった契約の内容を後日変更するには当事者の合意が必要となるのが原則で,賃貸借契約の賃料についても一般的には同様にいえます。そのためか,賃料の改定に関する特約を設けた賃貸借契約書をよく目にします。
ただし,建物所有目的の土地の賃貸借(借地)や建物の賃貸借(借家)については,借地借家法によって賃料の増・減額請求権が認められており,法定の要件を満たせば,当事者間に合意が成立しなくても最終的には裁判所の手を借りることで,いわば強制的に賃料を増減することが可能です。なお,駐車場の賃貸借契約は上記の借地・借家にあてはまりませんので,原則どおり,賃料を変更するためには,その旨の特約(当事者間の合意の一場面といえます。)があるか,当事者の新たな合意が必要となります。
2.普通借家では賃料を減額しない旨の特約は無効
ここで注意して欲しいのは,借地借家法では,賃料を増額しない旨の特約は有効としながら,定期借家契約を除いて,賃料を減額しない旨の特約は無効とされていることです。
定期借家でない建物の賃貸借契約書にも「期間中,賃料の改定は行わない」であるとか「更新時のみ協議で賃料を改定できる」という旨の記載はよく見受けられます。この場合,特約によって更新期以外の賃料増額請求はできなくなりますが,不減額特約は無効であるため,借地借家法に従った賃料減額請求は依然として可能となるのです。
建物の賃貸人が,なるべく賃料減額を求められる機会を少なくしようと考えて上記のような特約を契約書に盛り込んだ場合,賃借人が法律を知らなければ目的を達せられるかもしれませんが,法律的な結論としては,自分の首を絞めているだけといえます。
また,賃借人としては,このような特約の存在によって賃料減額を安易に諦めるのではなく(特約が無効とは思っていない方も世の中には多くいることと思います。),専門家に相談等して知識武装しておけば,賃料減額への道が開かれます。
3.賃料増減額請求の効果
賃貸借契約の一方当事者が賃料増・減額請求をすると,概念的には,その意思表示が相手方に到達した時点で,自動的に賃料が相当額へと改定されます。ここで「概念的」と申し上げたのは,実際には,当事者間に協議が整うか,相当な賃料額を定める裁判が確定するまでの間は,相当額がいくらになるのか当事者にも不明なためです。
そこで,借地借家法は,賃料増・減額請求がなされても,相当額を定める裁判が確定するまでの間,請求を受けた相手方は,自らが相当と思う賃料(従来の額とするのが一般的と思われます)を請求し,もしくは,支払い続けることが認められています。そして,相当額を定める裁判が確定した後に,過不足分に1割の利息を付して返還させることで調整を図っています(現在の経済状況で1割の利息が妥当な調整なのかについては意見がありそうですが,法律の規定で,そのように定められています。)。
例えば,賃料月額10万円の物件において,賃借人が賃料減額の意思表示をした場合,仮に相当賃料額を月額8万円とすると,概念的には,この時点で賃料が8万円に減額されますが,賃貸人は,裁判の確定まで従前の10万円を請求し続けることが認められています。
反対に,同じ場面で,賃借人は,月額8万円が相当であるからといって,裁判の確定前にその分しか支払わないということは認められておらず(例外的に,1割利息を恐れて賃貸人も月額8万円しか請求しないという事例であれば別ですが),債務不履行となり,最悪,賃貸借契約を解除されてしまうかもしれませんので注意してください。
増額請求の場合には,これらの関係が逆転します。すなわち,増額分が確定するまで,賃借人は従前の賃料額を支払っていれば債務不履行とならず,賃貸人はそれを超えて請求することができません。
4.おわりに
今回は,詳しい説明を試みるより,網羅的に書くことに努めてみました。賃料改定のみでなく,借地・借家については,借地借家法が賃借人を強く保護しているため,賃貸借契約書の記載がそのまま認められない場面も多いです。何か疑問がありましたら,是非一度ご相談ください。