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2021/09/16 賃貸借契約と解約権留保

弁護士 62期 山 崎 悠 士

1 民法上の原則



  期間の定めのない賃貸借契約において,当事者は,一定の予告期間をもって,いつでも解約の申入れをすることができます(民法617条)。当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても,中途解約権を留保する旨の合意(解約権留保特約)をした場合は,期間の定めのない場合と同様,中途解約の申入れを行うことが可能です(同618条)。  





2 借地借家法の適用がある賃貸借契約の場合



  以上は,民法上の賃貸借契約の場合ですが,借地借家法の適用がある場合はどうでしょうか。借地借家法は,「建物の所有を目的とする」土地の賃貸借契約(地上権設定の場合を含む)及び建物の賃貸借契約に関する民法の特別法にあたる法律です。同法では,主に借地人,借家人の権利保護に重点が置かれた規定が設けられており,そのため,このような借地借家法の適用のある賃貸借契約の場合に民法618条の適用を認めてよいか,特に,賃貸人からの中途解約の申入れを認めてよいかが問題となります。


  以上に関し,借地の場合に,賃貸人による中途解約権の留保を認める条項が借地借家法9条に反し無効であることは,おそらく見解の相違のない(少なくとも,有効であると唱える論者が多数であるとは思われない)ところでないかと思われます。他方で,借家の場合は見解の対立があるようで,これを有効とする裁判例,無効とする裁判例いずれも存在するようです(注1)が,借家の場合であっても中途解約権留保の条項自体は有効とし,ただ,賃貸人による解約権行使の場面では正当事由(借地借家法28条)の具備を要する,とする見解が有力であるように思われます。





3 定期建物賃貸借契約の場合



(1)前項は,いわゆる普通借家の場合の議論ですが,定期建物賃貸借契約(定期借家)の場合はどうでしょうか。


(2)まず,定期借家の場合,解約権留保の有無にかかわらず,一定の場合に賃借人の中途解約権を認める規定が存在します。すなわち,居住の用に供する建物(床面積が200?未満の場合に限る)の賃貸借において,転勤,療養,親族の介護その他のやむを得ない事情により,建物の賃借人が当該建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったとき,賃借人は,賃貸借の解約の申入れをすることができ,この場合,賃貸借契約は解約の申入れの日から1か月を経過することによって終了します(借地借家法38条4項)。


(3)では,以上の規定の適用を受けない場合の中途解約の可否,特に,賃貸人による中途解約権を留保する規定の有効性は,定期借家においてどのように理解されるべきでしょうか。

  この点,手元の文献でも見解が分かれており,一説は,借地借家法38条6項により中途解約権留保特約は無効となると説き(注2),他方では,同法38条1項によって同法30条の適用が排除されていることから,定期借家の場合は同法26条及び28条の規定の適用もなく,したがって,賃貸人に解約権を留保する特約が有効であることはもちろん,この場合,正当事由さえ必要でなく,賃貸人による中途解約の申入れから3か月の経過によって賃貸借契約は終了する(民法618条,617条1項2号)とする見解が存在します(注3)。

  以上のいずれの見解が正当とみるかは問題ですが,後者の見解はやや冒険的なようにも思われ,また,裁判例(注2)の存在も踏まえると,差し当たり前者の見解を採るのが保守的には正当(仮に条項を設けるとしても,無効とされるおそれがあると認識しておくべき)といえるでしょう(前者の見解を採る場合でも,契約期間が比較的短期に設定される限り賃貸人に具体的な不利益は想定されないといえます。)。

                                            
注1)無効とする裁判例として東京地判昭和27年2月13日,有効とするものとして東京地判平成26年3月25日等

注2)稻本洋之助外編『コンメンタール借地借家法[第4版]』328頁[藤井俊二](日本評論社,2019年)。同旨の裁判例として東京地判平成25年8月20日

注3)田山輝明外編『新基本法コンメンタール借地借家法[第2版]』243頁[吉田修平](日本評論社,2019年)