2013/01/15 遺言の作成について
弁護士 62期 石川 貴敏
1 はじめに
近年、遺言に対する世間の関心が高まっており、新聞や雑誌においても頻繁に遺言の特集を目にします(後に説明する公正証書遺言の作成件数は増加の一途を辿っています。)。
そこで、以下遺言の作成方法等について簡単に説明したいと思います。
2 遺言の種類
一口に遺言といっても、遺言には様々な種類のものがあり、まず普通方式と特別方式の2種類に大きく分類されます。特別方式は、死が目前に迫っている場合や伝染病で隔離されている場合など特殊な場合に作成される遺言であり、通常は普通方式による遺言を作成することになります。
普通方式による遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があり、それぞれメリット、デメリットが存在するので、各遺言の特性をよく理解した上で遺言を作成することが重要です(なお、秘密証書遺言は、要件不備による無効のリスクがあることに加えて手間や費用もかかることを理由に、現在ほとんど利用されていないことから、以下自筆証書遺言と公正証書遺言に絞って説明したいと思います。)。
3 自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言を自書(自ら筆記すること)することによって作成する方式の遺言のことをいいます(民法968条)。自筆証書遺言には、遺言の存在、内容を誰にも知られず、費用をかけずに作成できるというメリットがあり(必要なのは、紙と筆記用具と印鑑だけです。)、普通方式による遺言の中で最も簡単に作成することができます。よって、自筆証書遺言は、できるだけ手間や費用をかけずに遺言を作成したい方に向いている遺言といえます。
もっとも、自筆証書遺言は、法律上定められた以下の要件を満たさなければ無効とされるというデメリットがありますので、自筆証書遺言を作成する際には作成方法に十分注意することが必要です。
(1) 全文、日付、氏名の自書
自筆証書遺言は、全文、日付、氏名の全てを自書することが必要です。パソコンを使って作成されたものや他人に代筆してもらったものは無効となります。日付は、遺言を作成した日を記載することになりますが、具体的に特定できる日であることが必要です(例えば「平成24年11月吉日」という記載では日付を特定できないことから、遺言は無効となります。)。なお、自筆証書遺言の内容を訂正するには、法律に定められた方式に従う必要があり(民法968条2項)、要件を満たさない訂正は無効とされます。そのため、訂正が必要になった場合は新たに遺言を作成し直す方が無難です。
(2) 押印
押印に使用する印鑑は、三文判でもかまいませんが、本人が遺言を作成したことをより明確にするために、実印があれば実印を使用する方がよいでしょう。
また、自筆証書遺言は、遺言書を自ら保管することになるため、紛失しないように遺言書をしっかり管理・保管しておくことが必要となります。
4 公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証人に公正証書の形で遺言を作成してもらう方式の遺言のことをいいます(民法969条)。公証人が法律上の要件を確認しながら遺言を作成してくれますので、自筆証書遺言のように、遺言を作成したものの法律上の要件を満たさないがために無効とされるというリスクがありません。また、完成した遺言を公証人が保管してくれますので、紛失のおそれがなく、他人に遺言の内容を改ざんされる心配もありません。公正証書遺言には、公証人に対する手数料が発生し(遺産の価格によって異なります。)、また遺言の内容を公証人と証人2名(遺言を作成する際に必要とされます。)に知られるというデメリットもありますが、法律上有効な遺言を確実に残したいという方には、公正証書遺言によって遺言を作成することをお勧めします。
5 最後に
以上説明したように、法律上有効な遺言として認められるためには、法律上定められた方式に従って遺言を作成することが必要であり、方式外の遺言は無効となります。
また、遺言自体は有効であっても、遺言の内容が不明確又は不適切であった場合、かえって相続人間の紛争を複雑にしてしまうことになりかねません。
残された相続人間に無用な火種を残さないためにも、遺言の作成に少しでも不安がある方は、弁護士等専門家にご相談されることをお勧めします。