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2021/07/16 間接証拠(情況証拠)による立証 ー不貞行為の立証のー

弁護士 59期 眞 鍋 洋 平

1 民事訴訟における立証


  民事訴訟では、まず原告において、自らの請求を基礎づける権利があること、つまり当該権利の法律上の発生原因となる事実(主要事実。貸金債権でいえば、原告が被告にお金を渡したこと、被告が返還の約束をしたこと)を主張し、立証する必要があります(被告が自白した場合を除きます)。ただ、ここで求められる証明は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、高度の蓋然性(通常人が疑いを差し挟まない程度)の証明で足りると解されています。




2 直接証拠と間接証拠


  立証対象となる主要事実(原告の権利の発生原因事実など)を直接証明する証拠(直接証拠。契約の締結を直接証明できる契約書など)があるときは、それが書証の場合はそれが真正に成立したと認められれば、人証の場合はその信用性が認められれば、立証は目的を達します(成立や信用性が争われることも少なくありませんが)。


  これに対し、直接証拠がない場合、主要事実の存在を推認させる別の事実(間接事実)を示す証拠(間接証拠)によって立証を試みます。




3 実際の例(間接証拠の収集と立証)


  具体例として、私がかつて取り扱った事案をご紹介します。


  私の依頼者X(夫)は、妻Aが職場の同僚男性Yと不貞関係にあると考え、Yに対する慰謝料請求をしたいと考えていました(不貞行為は、通常、配偶者に対する不法行為になりますので、配偶者に不貞をされた人には、不貞をした当事者に対する慰謝料請求権が発生します)。


  しかし、通常、不貞行為そのものを直接立証する証拠は存在しませんので、不貞をした当事者が否認した場合、不貞行為があったことを推認させる間接証拠(情況証拠)を積み上げて立証していくほかありません。


  Xは、証拠として、AがYと撮影したプリクラ(YとAがキスをしながら撮影したもので、二人のあだ名と思しき落書きあり)やAの手帳(密会したと思しき日に、ハートマークと、Yのあだ名、ホテル名(甲・乙)の書き込みあり)を撮影した画像データを私に示しました。確かに、プリクラの画像は、AとYが親密な関係にあることを窺わせる証拠ですし、手帳の画像も、AとYがホテルで密会していた可能性を一定程度窺わせる証拠といえます。


  もっとも、私は、これらの証拠だけでは、AやYに弁解の余地を残すと考え、ほかに手がかりになりそうな証拠がないかXに確認しました。


  すると、Xは、自宅のごみ箱で、Aが家計簿をつけた後に捨てたと思われる交通系ICカードの利用履歴明細書を見つけてきました。その明細書には、ホテル甲や乙の最寄り駅で何度も乗降車していることが印字され、乗降日はいずれも手帳にハートマークとホテル甲や乙の記載がある日と一致していました。


  そこで、私も、ホテル甲、乙に対し、YまたはA名義での利用履歴の開示を求める弁護士会照会の申出を行いました。弁護士会照会は、個人情報保護を理由に回答を断られることがあり、ホテル乙には回答を断られてしまいましたが、ホテル甲からは、直近半年間におけるAの上記乗降日と同一日(複数日)に、Y名義でデイユースの利用履歴があるとの回答を得ることができました。


  これにより、Yがホテル甲をデイユース利用していたこと(ホテル甲の回答書)、その当日にAがホテル甲の最寄り駅で乗降していたこと(交通系ICカード利用履歴明細書)、Aが自らの手帳に上記当日ホテル甲での密会を匂わせる書き込みをしていること(手帳の画像)、AとYが(ただの友人・同僚関係とは異なる)親密な関係にあること(プリクラの画像)といった間接事実を示す間接証拠が揃いました。


  本件では、証拠を示さない裁判外交渉段階ではAもYも不貞関係にあることを強く否定していましたが、提訴と同時に証拠を提出するとすぐに観念し、Xにとって実質勝訴的な和解(XがYから慰謝料の支払いを受ける内容)が成立しました。手持ち証拠がプリクラと手帳の各画像だけの状況で提訴していたら、仲の良い友人関係だとか、手帳の記載の意味はXの理解とは異なるなどと弁解されていたでしょう。


  紛争解決に際しては、提訴後の駆け引きや主張反論だけでなく、提訴前の証拠の収集、分析、評価がとても大切です。訴訟をお考えの場合、まずは手持ち証拠で訴訟が戦えるか、また追加の証拠収集の要否や方法など、弁護士にご相談ください。