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2014/10/15 高齢者の財産管理

家族への思いやりが重要です

  周知のとおり,現在,日本では高齢化が進んでおり,平成25年9月15日現在で,65歳以上の高齢者人口は3186万人,総人口に占める割合は25.0%(4人に1人)に及んでいます(総務省統計局による推計)。また,約10年後の平成47年には総人口に占める高齢者の割合は33.4%(3人に1人)に達するといわれています(国立社会保障・人口問題研究所による推計)。

  このように高齢化が進む日本において,避けて通れない問題の一つが,高齢者の財産管理の問題です。財産を適正に管理ないし処分するための判断能力(法律上は事理弁識能力等という言葉を用いますが,ここでは便宜上,以下「財産管理能力」といいます)の有無や程度は,一概に年齢だけでは決まりませんが,高齢になれば病気にもかかりやすくなりますし,体力も落ち,これらに伴って財産管理能力が衰えるということがまま見られます。

  これを裏付けるように,過去5年間に全国の裁判所に申し立てられた成年後見関係事件(後見開始だけでなく,保佐開始,補助開始及び任意後見監督人選任も含みます)は,平成21年が27,397件,平成22年が30,079件,平成23年が31,402件,平成24年が34,689件,平成25年が34,548件とおおむね増加傾向にあるようです(最高裁判所事務総局家庭局発表の統計)。

  成年後見等制度は,本人の財産保全の観点から有用な制度です。成年後見等が開始されていると,(成年後見か,保佐か,補助かによって範囲に違いはあるものの)本人が単独で行い得る財産処分行為(法律行為)の範囲が制限され,成年後見人等の同意なく本人が行った重要な財産処分行為を取り消すことができるからです。例えば,悪意ある第三者の甘言に乗せられて本人が高額商品やリスクの高い商品を購入する契約を締結してしまったような場合には,成年後見人等において契約を取り消して財産の流出を防いだり,流出した財産を取り戻したりといった対抗手段を講じ易くなります。

  とはいえ,本人の財産管理能力が衰えたらすぐに成年後見等制度を利用するというケースはあまり多くありません。そのような状況は,管理すべき財産が乏しい場合だけでなく,管理すべき財産がある場合(例えば,賃貸用不動産を保有する場合や,金融機関との間で借入等の取引を行っている場合等)も例外ではないようです。

  その理由としては,成年後見等の開始を求めて裁判所に申立てを行うのは,多くの場合は本人の親族であるところ,成年後見等の開始がなされると,第三者の保証をする,贈与等の相続税対策をする等,外形的にみれば本人の利益にならない行為やリスクを伴う行為は,原則として為し得なくなり,親族(特に,本人と家計を一にする親族,つまり本人と同じ財布で生活をする親族)にとってみれば,柔軟な財産管理が損なわれると感じられる場合もあること,親族が成年後見人等に就いた場合には,裁判所に対する定期的な財産報告等が親族の負担となること等の事情があるものと思われます。

  しかし,財産管理能力が衰えた本人に代わって,その親族が事実上財産管理を行ってしまっている場合,現時点では問題が顕在化していなくても,突如問題が生じるということもあるので,注意が必要です。

  例えば,(1)同居する等して本人(両親等)の面倒をみていた相続人において,成年後見等制度を利用していなかったばかりに,本人が亡くなって相続紛争が勃発した途端,他の相続人から,本人の財産を好き勝手に浪費していた,あるいは領得していた等と言いがかりをつけられるというケース,(2)本人が従前金融機関との間で継続的な借入等の取引をしており,(その親族は)返済期限が到来した際には借換えや返済期限の延長をしてもらうつもりでいたが,成年後見人等がいないことを理由に,金融機関に借換え等の手続をとってもらえないというケース,(3)本人所有の賃貸用不動産の入居者が賃料を滞納するようになったため,(その親族が)貸室の明渡しを求めて裁判や保全処分といった手続をとろうとしたが,そのような法的手続は本人が行う必要があるため,本人にあらかじめ成年後見人等がついていないと必要な処分をするまでに時間がかかり,損失が拡大してしまうケース等々が考えられます。

  いざ制度利用の必要に迫られてから手続をとろうとしても,すぐに成年後見人等が選任されずに事態が悪化してしまったり,それまで親族が事態を放置して本人に代わり財産管理を行っていたことを第三者から問題視されたりと,将来の問題を大きくしかねません。

  そこで,財産管理能力が衰えた高齢者等を抱える家族にあっては,当該高齢者等に管理すべき財産が存在するか,存在するとしてどのような財産か,今後必要となる財産管理ないし財産処分の見込みはどうか等を勘案して,早めに成年後見等制度の利用を検討することが望ましいといえます。

  また,成年後見等制度には,財産管理能力が衰えてから利用を検討するものだけでなく,元気なうちから,財産管理能力が衰えた場合に備えて,誰に自分の財産管理を任せるかといったことを自分で決めることができる任意後見制度も存在します。

  今は大きな問題になっていなくとも,高齢者等の財産管理を事実上代行している親族の方々,自らの財産でご家族の生活を支えている高齢者の方々は,他人事と考えずに,一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。