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2020/04/15 魔神の約束

BOBCAT

  The Day 7.

  今日は4月14日で、緊急事態宣言の発効から7日目である。

  新型コロナウイルスが地球的規模で問題となって以来、世の中は一変してしまった。あたかも、見えない宇宙人によって人類(決して、地球ではない)全体が侵略を受けているようなものである。新年最初の重大事件が日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の国外逃亡事件であったことなど、もはや誰も覚えていないのではないか。






  新型コロナウイルスの問題が深刻化してから繰り返し頭に浮かんでくるのが、歴史学者の與那覇潤氏が『日本人はなぜ存在するか』(集英社インターナショナル、2013年)で紹介していた次の話である。






  あなたがこの国の指導者だったとする。ある夜枕元に魔神が現れてこう言ったとする。「お前が毎年1000人の国民の命を差し出すと約束すれば、国を繁栄させ、すべての国民が豊かな暮らしをできるようにしてやろう」。あなたは約束に応じるだろうか(問題を単純化するために、魔神は必ず約束を守るということにする)。

  ※小林和之氏『「おろかもの」の正義論』115頁(ちくま新書、2004年)






  あなたなら、魔神との取引に応じるであろうか。「とんでもない」というのが、大方の良識的な人の反応ではないであろうか。しかし、小林氏及び與那覇氏によれば、実際には、我々はすでにこのような取引をしてしまっているのである。

  警察庁の統計によれば、我が国での2019年の交通事故による死者数は3215人であり、かつては毎年1万人以上にも上っていた。法律で自動車の最高速度を時速30キロに制限し、技術的にも、自動車が出せるスピードを30キロに抑えてしまえば、交通事故は大幅に減るはずであるし、事故が起きても被害者は軽傷ですみ、交通事故による死者は激減するであろう。

  しかし、誰もそのような法律の制定や対策の実施を求めてはいない。それは、自動車産業界のためばかりではなく、我々国民が、自動車交通によって得られる国の繁栄や豊かな暮らしを手放すのがいやだから(そして、自動車交通がもたらしてくれる国の繁栄や豊かな暮らしのためには毎年数千人の命を差し出すことも構わないと判断しているから)にほかならない。






  新型コロナウイルスがあっという間に世界中に広まってしまったのは、経済発展と豊かな暮らしを求めていわゆる経済のグローバル化を進めていたからであるし、新型コロナウイルス対策について、各種営業の停止・外出禁止の強い要請と経済への打撃の回避との優先関係が問題となっているのも、まさに魔神の約束の話と同じ性質であろう。 

  では、我々はどうするべきか。

  残念ながら、私はその答えを持ち合わせていないし、本ページのような軽い場で論じるような事柄でもないであろう(政府与党はやたらと魔神と約束したがっているようだが)。我々がなすべきことは、自分が感染せず、また他人に感染させないように、小さな努力を積み重ねることだけである。






  奇しくも、緊急事態宣言の終了日(延長されなければ、であるが)の5月6日の2日前の5月4日は、スター・ウォーズの日である。

  無事に5月7日を迎えたいものである。皆さんのご健闘を祈る。

  May  the 4th  Be  With  You.