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2020/11/17 <パワハラ防止法の施行>

弁護士 61期 遠 藤 直 子

1 パワハラに関する法制化


  2019年5月、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(略称:労働施策総合推進法)が改正され、パワーハラスメント(パワハラ)に関する事業主の措置義務等が定められました。これまではパワハラに関する法律の定めはなかったため、労働施策総合推進法の当該改正部分を指して、パワハラ防止法と呼称されています。

  パワハラ防止法は、2020年6月1日から施行されましたが、中小企業については2022年4月1日から措置義務が義務化され、それまでの間は努力義務とされています。




2 パワハラの定義


  職場におけるパワハラは、職場において行われる1)優越的な関係を背景とした言動であって、2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、3)労働者の就業環境が害されるものであり、1)から3)までの要素を全て満たすものをいいます。

  「職場」とは、労働者が業務を遂行する場所を指し、業務を遂行する場所であれば、出張先や取引先の事務所等も職場に含まれます。

  また、「労働者」とは、事業主が雇用する全ての労働者をいい、契約社員等の非正規雇用労働者も含まれますし、派遣労働者も含まれます。




3 要素1):優越的な関係を背景とした言動


  業務を遂行するに当たって、抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指します。典型的な上司の部下に対する言動ばかりではなく、業務上必要な知識や豊富な経験を有している者からの言動や集団の力を利用した言動も該当することがあり、先輩・後輩間、同僚間、部下から上司に対して行われるパワハラもあり得ます。




4 要素2):業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの


  社会通念に照らし、明らかに業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指します。この判断に当たっては、当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容、程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等を総合的に考慮する必要があります。個人の受け取り方によって不満に感じる場合でも、業務上の適正な範囲で行われる注意や指導であれば、パワハラには該当しません。




5 要素3):労働者の就業環境が害されるもの


  身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。




6 パワハラの具体例


  厚労省の指針には、パワハラの具体例として、1)身体的な攻撃(暴行、傷害)、2)精神的な攻撃(脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言)、3)人間関係からの切り離し(隔離、仲間外し、無視)、4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)、5)過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)、6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)が例示されています。




7 事業主が講ずべき措置


  事業主には、パワハラ防止のために、1)方針等の明確化及びその周知・啓発、2)相談に適切に対応するために必要な体制の整備、3)パワハラへの迅速かつ適切な対応、4)相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置、5)相談したことや調査に協力したこと等を理由として不利益な取扱いをしない旨定め、労働者に周知・啓発することの措置を講じる義務が課されています。具体的には、就業規則等にパワハラに関する規定を整備する、社内報等でパワハラ防止を周知する、パワハラ防止に関する研修を行う、相談窓口を整備するといった対応が求められることになります。

  事業主がこれらの義務に違反した場合には、罰則はありませんが、厚労大臣による助言、指導、勧告の対象となり、勧告に従わない場合には企業名が公表されることがあります。