2015/01/16 <懲戒処分の有効性>
弁護士 61期 遠藤 直子
1 従業員が何か問題を起こした場合には、使用者としては懲戒処分を行うことが可能かどうか、可能だとしてどの程度の懲戒処分が妥当かということを検討することになります。日本では一般的に懲戒解雇が認められにくいなどと言われていますが、懲戒処分一般についてそれが有効と認められるためにはどのような要件を満たす必要があるのかを概観したいと思います。
2 就業規則への明記(根拠規定の存在)
まず、使用者が懲戒処分を行うためには、あらかじめ懲戒の事由・種類・程度を就業規則に明記し(労働基準法89条9号)、従業員に周知しておく必要があります。懲戒処分は、従業員の企業秩序違反又は職場規律違反の行為に対して使用者が加える特別の制裁であり、使用者と従業員との間の契約関係における特別の根拠を必要とすると考えられているためです。懲戒処分として有効か否かが裁判で争われる場合にも、裁判所は、従業員の行為が就業規則上の懲戒事由に該当するものかどうか、実施された懲戒処分の内容が就業規則に則っているかどうかという観点から懲戒処分の有効性を判断しているため、就業規則に懲戒処分の根拠規定が置かれているかどうかが重要になります。
3 懲戒事由への該当性
懲戒処分が有効とされるためには、従業員の行為が就業規則上の懲戒事由に該当するものでなければなりません。懲戒事由の例としては、経歴詐称、職務懈怠(無断欠勤、遅刻過多、職場離脱等)、業務命令違反(時間外労働命令の違反、配転命令の違反等)、業務妨害、職場規律違反(横領、会社物品の窃盗、同僚への暴行等)、従業員たる地位・身分による規律の違反(私生活上の非行、無許可兼職等)といったものがあります。なお、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないとされており、新たに判明した非違行為を既に行った懲戒処分の理由に追加することは認められません。
4 相当性(懲戒権の濫用)
使用者の懲戒権の行使は、当該懲戒に係る従業員の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利の濫用として無効とされます(労働契約法15条)。
懲戒処分は、従業員の非違行為の重大性と均衡がとれていなければならず、裁判所に懲戒処分が非違行為に比べて重過ぎると判断された場合には、当該懲戒処分は懲戒権の濫用により無効とされます。
また、従業員の一つの非違行為を理由として二重の処分をすることはできませんが、従業員が過去の懲戒処分にもかかわらず同様の行為を繰り返し、そこに改悛の情が見られないという事実が新たな懲戒事由とされている場合には、それは二重処分には該当しないものと解されています。
なお、新設又は改訂された就業規則の条項を、過去の従業員の行為に適用して懲戒処分を行うことはできません(遡及的適用の禁止)。
5 懲戒手続
懲戒処分は、手続的な相当性を欠く場合にも、懲戒権の濫用として無効となります。就業規則や労働協約上必要とされる手続が定められている場合には、その手続を履践していることが必要であり、そのような規定がない場合にも、本人に弁明の機会を与えることが要請されます。
6 懲戒処分の時期
懲戒処分の目的は、企業秩序の維持・回復であるため、対象となる非違行為が明らかになった時点で速やかに懲戒処分がされる必要があります。非違行為の時点からかけ離れた時点で懲戒処分を行った場合には、特段の合理的な理由がない限り、当該懲戒処分は懲戒権の濫用として無効となります。
7 具体的事案においてどのような懲戒処分が妥当であるかについては、個々の具体的な事情を踏まえて慎重に検討する必要があり、その判断を誤ると、後日、懲戒処分の無効に加えて、使用者の不法行為責任を問われる可能性もあります。懲戒処分を検討される際には、事前に処分の妥当性につきご相談いただくことをお勧め致します。