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2018/12/15 <民法改正における債務引受、契約上の地位の移転>

弁護士 61期 遠 藤 直 子

1 債務引受




(1)債務引受は、債務の同一性を保ったまま契約によって債務を移転する制度であり、判例・学説においてその有効性が認められてきましたが、現行民法には、債務引受の要件・効果を定めた規定はありませんでした。そこで、改正民法においては、債務引受の要件・効果を定めた規定が新設されました。その基本的な内容は、従前の判例や解釈を明文化するものとなっています。


(2)併存的債務引受(改正民法470条?471条)

  併存的債務引受では、第三者(引受人)が債務を負担した後も元の債務者が引き続き債務を負担します。

  改正民法においては、併存的債務引受は、引受人と債権者又は債務者との契約によって成立すると定められています(470条2項、3項)。なお、引受人と債務者との契約によって成立する場合には、債権者が引受人に対して承諾をしたときに効力が生ずるものとされ、債権者の承諾が効力発生要件とされています。

  併存的債務引受における債務者の債務と引受人の債務は、連帯債務の関係となり、特別の合意がなければ、連帯債務に関する規定が準用されることになります(470条1項)。

  また、引受人は、併存的債務引受の効力発生時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができ、債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、それによって債務者が債務を免れるべき限度において、引受人も自己の債務の履行を拒むことができるとされています(471条)。


(3)免責的債務引受(改正民法472条?472条の4)

  免責的債務引受では、引受人が債務を負担した後は元の債務者が債務を免れることになります。

  改正民法においては、免責的債務引受は、引受人と債権者との契約によってすることができ、債権者が債務者に契約の成立を通知したときに効力が生ずる(債務者への通知が効力発生要件、債務者の承諾は不要)とされています(472条2項)。

  また、免責的債務引受は、引受人と債務者との契約によってすることもできますが、この場合には、債権者の承諾が必要(債権者の承諾が契約成立要件)とされています(同条3項)。債務者の交代によって債権者が不利益を被るおそれがあるため、債権者の承諾なしには免責的債務引受が成立しないとされたものです。

  引受人は、免責的債務引受の効力発生時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができ、債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、それによって債務者が債務を免れるべき限度において、引受人も自己の債務の履行を拒むことができるとされています(472条の2)。

  免責的債務引受においては、引受人は、原則として、債務者に対して求償権を取得しませんが(472条の3)、別途引受人と債務者との間で求償権を発生させる旨の合意をすることは可能です。

  免責的債務引受による担保の移転に関し、改正民法では、債権者は、債務者が負担していた債務の担保として設定された担保権及び保証について、予め又は同時に引受人に対して移転をさせる旨の意思表示をすることによって、引受人が負担する債務に移転することができるものとされました(472条の4)。但し、移転の対象となる担保又は保証を引受人以外の者が設定しているときは、その者の承諾を得なければならず、その承諾は書面又は電磁的記録によってしなければならないとされています。





2 契約上の地位の移転(改正民法539条の2)




  現行民法には、契約上の地位の移転に関する規定はありませんでしたが、判例・学説においてその有効性が広く認められてきたところであり、改正民法においてこれまでの解釈が明文化されました。

  改正民法において、契約上の地位の移転は、契約当事者の一方(譲渡人)と第三者(譲受人)との契約によってすることができ、契約の相手方が譲渡を承諾したときに契約上の地位が譲受人に移転するものと規定されました。

  契約上の地位が二重に譲渡された場合の対抗問題については、規定が設けられておらず、引き続き解釈に委ねられています。

  なお、不動産の賃貸人たる地位の移転に関しては、特則が設けられています(605条の2、3)。