弁護士法人 小野総合法律事務所 ONO SOGO LEGAL PROFESSION CORPORATION

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2022/09/22 <終了通知がないまま契約期間が満了した定期建物賃貸借について>

パートナー 弁護士 松田竜太

※小野総合通信 Vol.76(2022年夏号・2022年8月1日発行)より転載

1 定期建物賃貸借(借地借家法38条)は、建物の賃貸借契約について、契約の更新がないものとすることができる制度です。

いわゆる普通建物賃貸借は、賃貸人が期間満了をもって契約を終了させようとしても、あらかじめ賃借人に対し契約を更新しない旨を通知することが必要であり、かつ、その通知は、賃貸人自身が対象の建物を使用する必要性がある等の、いわゆる正当事由がなければできません(借地借家法26条、28条)。

そのため、賃貸人にとって、普通建物賃貸借は、期間が満了しても契約が更新され得るのに対し、定期建物賃貸借は、不本意な契約の更新を避け、契約の終了時期を予測可能にできるものであり、実務上もよく見受けられます。

2 ところで、定期建物賃貸借は、期間が1年以上の場合、賃貸人は、期間満了の1年前から6か月前までの間に(以下、この期間のことを「通知期間」といいます。)、賃借人に対し、期間の満了により賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、契約の終了を賃借人に主張することができません。ただし、賃貸人は、通知期間内に通知をしなかった場合でも、通知期間が経過した後に、賃借人に対し賃貸借が終了する旨を通知すれば、その通知の日から6か月が経過した時点で、契約が終了したことを賃借人に主張できます(借地借家法38条6項)。

それでは、賃貸人が通知期間内に通知をしないまま、その定期建物賃貸借の契約期間が満了してしまった場合、どうなるのでしょうか。この場合でも、賃貸人は、賃借人に対し賃貸借が終了する旨を通知して、それから6か月が過ぎれば、契約の終了を主張することができるのでしょうか。

3 この点について、借地借家法38条6項の条文上は、契約期間が満了した後は、賃貸借が終了する旨を通知することはできないといった制限はありません。

よって、賃貸人は、契約期間が満了した場合でも、いつでも終了の通知をすることができ、通知の日から6か月が経過すれば、契約の終了を賃借人に主張できるとする見解があります。この見解は、定期建物賃貸借は期間満了をもって確定的に終了することを前提とするものであり、定期建物賃貸借が契約の更新を排除するための制度であることからすれば、もっともなようにも思えます。

他方で、期間満了後も賃借人が建物の使用を継続し、賃貸人も特に異議を述べることなく賃料を受領し続けたまま長期間が経過したような場合にまで、賃貸人がいつでも契約を終了させられるとすることは、賃借人の地位が不安定になるようにも考えられます。また、このような場合の定期建物賃貸借は、契約期間を区切るという本来の要素ないし機能が失われており、賃貸人のために契約の終了時期を予測可能にするという制度趣旨は、もはや妥当しないともいえます。

そこで、期間が満了した定期建物賃貸借の賃貸人は、終了通知をして契約を終了させることはできないとする見解もあります。そのような結論を導く理由は、学説によりいくつかの異なる説明の仕方がありますが、例えば、定期建物賃貸借には、上述した借地借家法26条の更新規定は適用されないものの、賃貸借契約一般について更新の推定等を定めた民法619条が適用されるとして、期間満了後も賃借人が建物の使用を継続し、賃貸人も異議なく賃料を受領していた場合には、この民法619条によって期間の定めのない普通建物賃貸借が成立すると説くものがあります。

そして、いったん期間の定めのない普通建物賃貸借が成立してしまうと、賃貸人は正当事由がある場合にのみ解約の申入れができるにすぎず(借地借家法27条、28条)、終了通知によって一方的に契約を終わらせることはできません。

4 この問題に関する裁判例としては、先例となる最高裁判例はなく、下級審裁判例の中に、契約期間の満了後の終了通知による定期建物賃貸借の終了を認めるものや、定期建物賃貸借は期間満了により確定的に終了すると判示するものが散見されるにとどまります。

しかし、結論的には契約終了を肯定する裁判例も、各々の内容をよく検討すると、定期建物賃貸借は期間満了により確定的に終了するとして、黙示の更新や普通建物賃貸借への転換についても否定するものがある一方、期間満了による終了を認めつつ、賃貸人が終了通知をしないまま、賃借人が建物を長期にわたって使用継続している場合は、黙示的に新たな普通建物賃貸借が締結されたと解する等して対応すべきとするものもあり、訴訟実務における一般的な考え方や傾向は明らかであるとはいえません。

5 以上の次第ですので、定期建物賃貸借の賃貸人としては、まずは、通知期間内に終了通知を忘れずに行い、少なくとも、終了通知をしないまま契約期間が満了することがないように、確実に契約を管理することが重要であるといえます。

万一、終了通知をせずに契約期間が満了し、そのままになっている定期建物賃貸借がある場合、その終了に関してはこれまで述べた法律上の問題があるため、当事務所までご相談いただくことをお勧めします。