弁護士法人 小野総合法律事務所 ONO SOGO LEGAL PROFESSION CORPORATION

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2016/09/15 AI裁判

YM

  昨今,人工知能(AI(Artificial Intelligence))に関する技術が目覚ましい発展を遂げ,各方面で競うように研究開発が進められていることは,ご存知の方も多いと思います。




  金融業界では,ヘッジファンドなどの運用のプロがAIを利用した超高速取引をしていますし,金融機関などがサービスの向上や競争力維持を図るために導入を進めている「フィンテック」(ITを駆使して新たな金融サービスを提供すること)が注目を集めています。ほかにも,自動車業界では,自動車メーカー(テスラ,ダイムラー,トヨタなど)やIT企業(グーグルなど)による自動運転技術の開発が進み,建設業界でも,トンネル掘削機の無人操作ソフト(AI)が開発されている(清水建設)など,様々な分野で開発が進んでいるようです。



  人口減少が見込まれる日本などにおいて労働力不足を補うためにも,また,グローバル化のもと常に発展が求められる経済やそれを支える技術の革新を図るためにも,AIが人間にとって必要かつ重要なツールであることは,間違いないでしょう。



  しかし一方で,AIが進化していくと,ほとんどの職業は,AIによる代替が可能となり,過度に人間の領域を脅かす(これによりAIを駆使する者とAIに代替されてしまった者との貧富の格差がさらに拡大する)といった懸念(AI脅威論)も示されており,米国では,工場などでの作業,一般事務,コールセンターの案内,店舗での販売,さらには会計士の仕事でさえ,将来的にはAIで代替可能になるのではないかと言われているようです。



  このような脅威論がどこまで現実的なのかはわかりませんし,AIが人間にとって替わるような発展の仕方をするのか,現時点では答えが出ませんが,自分たちの仕事がAIに代替され得るものなのかどうか(AIには容易に代替し得ない価値を生み出しているのかどうか)を考えてみることは,現時点で自分たちがやるべきことを設定するうえでも必要なことかもしれません。



  わが身を顧みると,私たちは,弁護士として,訴訟をはじめとする紛争処理や,紛争を未然に防ぐ契約法務など,経済活動を支える幅広いリーガルサービスを提供していますが,法律の文言や判例といった比較的容易に検索可能な情報を用いて個別事案の結論の可能性を示すという程度の仕事であれば,近い将来,AIが容易に代替し得るように思います。もしかすると,将来,AI弁護士(検察官)が裁判で主張を繰り広げ,AI裁判官が判決を言い渡すというSF的な世界が到来するかもしれません(半ば冗談のような話ですし,AI裁判官については憲法上の問題があると思いますが)。



  しかし,紛争の解決は,多くの場合,表層的な事実を抽出し,法律を機械的に適用することによって解決するものではありません。



  法的な紛争解決においては,まずもって前提となる事実をどのように評価・認定するのかが極めて重要であり,事実の評価(見方)次第では,法律を当てはめたときの結論も大きく異なることがあります(たとえば,AさんがBさんに1億円を贈与したという事実があったとして,Aさんにとって1億円が大金なのか,資産全体のごく僅か一部に過ぎないのか,Aさんが手切れ金の趣旨で贈与したのか,Bさんの長年にわたる力添えに対する御礼として贈与したのかなどによっても,贈与という事実がもつ意味合いや結論に与える影響度合いが異なることがあります)。



  また,法解釈も,その字面(文言)だけにとらわれるのではなく,法律の定められた背景・趣旨や,特定の法解釈から導かれる結論が社会に与える影響なども踏まえながら,なるべく普遍的な価値観(多くの人があるべきと考える価値観)との整合性(結論の妥当性)を図るように行わなければなりません。このような作業は,法律,その他のルールがあえて残した解釈の余地(遊びの部分)を,事案ごとにどのように埋めていくかという作業であり,そのような作業にあたっては,人ごとに微妙に異なる価値観,感情(ときに思惑,打算)なども理解する必要があるのです。



  さらに,生きた紛争には,経済的な合理性を超越した人間の感情的な対立があり,事実を隠し嘘をつく人がいて,裁判での勝ち負け以上に名誉や風評リスクを気にする人がいて,ときには紛争状態の継続それ自体を望む人さえもいます。そのため,紛争当事者の代理人となる弁護士は,そのような人間の感情や思惑を,裁判や交渉といった手段を利用して,どのように結果に結びつけていくかを,ときには法律や手続の枠を超えて考える必要があります。



  このような人間の機微を考えながら,法曹一人ひとりが知識や信念,いわば全人格を動員した活動を行っている限りにおいては,AIがこれを代替することは容易ではないと私は信じていますが,反対に,そのような努力を怠り,同じような事案を機械的にこなすような仕事をしているようだと,AIに仕事を奪われることにもなりかねないのだと思います(競合するのは何もAIだけに限りませんが)。



  私事ですが,来月,弁護士になって10年の節目を迎えます。AIが今では信じられない進化を遂げているであろう10年後,20年後,この雑記帳を読み返して恥ずかしくならない仕事をしていたいと考える今日この頃です。