弁護士法人 小野総合法律事務所 ONO SOGO LEGAL PROFESSION CORPORATION

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2016/12/15

弁護士 58期 松 村 寧 雄

1 はじめに



  昨今,インターネットなどの発達によって,法的問題についてあらかじめキーワードなどを検索し,法的な知識を得て,おおよその結論を考えている方も多いかと思います。実際に,私が相談をお受けする際も,インターネットで調べて来ましたという方がいらっしゃいます。


  もっとも,簡単な問題であれば,インターネット上にある知識により回答が得られることもありますが,現実のところはそうではないことが多いのです。また,調べた知識をうまく生かせていないこともあります。どうしてこのようなことが起こるのでしょうか。


  その理由は,知識が体系的に整理されているかどうかということもあるでしょうが,最も大きなものは,法的なものの考え方が身についているかどうかというところにあると思われます。


  法的なものの考え方とはどのようなものでしょうか。以下に見ていきます。





2 法的三段論法



  法律の条文を見てみると,そこに記載されているのは,何かをしたら,このような法律上の効果が発生しますというものです。わかりやすい例でいえば,人を殺した場合には(何かをしたら),死刑または無期もしくは5年以上の懲役に処する(発生する法律上の効果)とされております。


  この条文だけ見ると,特に問題はなさそうですが,人の範囲はどこまでなのか(生まれる前の人は人であるのか,人の死はいつをもって死と考えるのか),殺すという行為はどの程度のものまで含まれるのか(死にそうになっている人を見過ごしてしまい,その人が死んだ場合はどうか),殺したといえるのはどのような場合か(瀕死の重傷を負わせるだけの行為をしたが,別の原因で死んだ場合はどう考えるのか)などということや,現実に起きた事実関係から人を殺す行為と人の死という結果をどのように抽出するのか(殺すという意思をどのようにして認めるのかなど)を考え始めると,どのように整理して考えれば良いかわからなくなってしまうのです。


  この場合に頭を整理するには,論理学の三段論法という推論の形式を利用すると便宜です。


  すなわち,すべての人間は死すべきものである(大前提),ソクラテスは人間である(小前提),故にソクラテスは死すべきものである(結論)という推論形式を上記法律論に拝借し,大前提として法律上の条文(前の例でいえば,人を殺した場合には,死刑または・・・の懲役に処するというもの),小前提として現実に起きた事実の把握(例えば,AがBの体の枢要部をナイフで刺した,その結果Bが死んだ),結論として,Aは死刑または・・・の懲役に処せられると考えるのです。


  純粋な論理学上の三段論法であれば,大前提に小前提を当てはめるだけで,論理必然的に帰結が導き出されますが,法的三段論法の場合には,上記の例でも明らかなように,法律上の条文自体が一義的ではなく,大前提そのものを検討する必要があること,小前提としての事実についても,実際に起こった出来事は過去の出来事である以上,事実を正確に確定することができないために,証拠から事実を推論していくしかなく,それぞれの前提の確定そのものに価値判断や評価を加えざるを得ない点があり,論理必然的な結論を出すことはできません。


  もっとも,文言上の意味やこれまでの過去の事例の分析などによって蓄積された法律の条文の意味を理解することと実際において発生した事実をいかにとらえていくかという作業に分けて考えるという思考方法をとることにより,結論を導くことが可能となるのです。





3 事実と評価



  法的三段論法の有用性については,上記のとおりですが,結論を考えるにあたり,もう一つ重要なことは,上記の事実をきちんととらえているかということです。


  すなわち,具体的に人を殺したという例で考えると,要件として人を殺す意思(故意)が必要であるところ,「AはBを恨んでいました」というAのことを知る人の証言は,故意を推認させるような事実といえるかということです。


  恨んでいたという言葉のとおり,この証言はAのことを知る人がAの様子を見て下した評価であって,事実ではありません。恨んでいたという評価を下すには,AがBから執拗に暴言を吐かれていた,AがBに金銭を貸与し,返済を督促したにもかかわらずBは全く返済しようとせず,Aの生活費が底をついたなどという具体的な事実を確定させて始めてできることです。


  評価と事実を峻別しなければ,評価が個人の主観によって左右されやすく,それにより判断することによる誤りが発生しやすくなってしまうのです。


  Aの故意を認めるためには,AがBのことを恨んでいたという評価ではなく,上記の事実を一つ一つ証拠から確定させていくことが重要なのです。





4 まとめ



  以上により,法律の条文の把握とこれに対応する具体的な事実の抽出という作業が法的なものの考え方の核心部分であることがご理解いただけたかと思います。今後,法的問題について考える際には,条文を確認し,起きている事実関係を丁寧に確認するということを念頭においてご検討ください。


  また,我々弁護士は,上記のような思考方法をもとに,物事を考えております。このような思考を参考にしていただければ幸いです。